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「STELA(宇宙技術研究部)」ARLISS2016ゴール達成!堂々世界3位

ゴール達成! 堂々の世界3位! 宇宙「バカ」の挑戦 ARLISS 2016

STELA(宇宙技術研究部)は2016年、ネバダ州で行われた超小型人工衛星の大気圏内打ち上げ競技会「ARLISS(A Rocket Launch for International Student Satellites)」に参加。 6年目のチャレンジで、ついにカムバックコンペティションで初のゴール判定を果たし、世界3位を勝ち取りました。

ARLISSについて

ARLISS(A Rocket Launch for International Student Satellites)は、UNISEC(大学宇宙工学コンソーシアム)の主催で毎年9月に米ネバダ州のブラックロック砂漠で行われる、大学生を主とした超小型衛星の大気圏内打ち上げ競技会。日本、米国、韓国、エジプト、ペルーの各大学が製作した衛星の打ち上げを行います。人工衛星を惑星へ送り、そこで無人探査機が稼動する宇宙ミッションを想定した世界的な競技会です。

「ローバ」ってどんなもの?

ローバ(Rover)とは、宇宙探査を行う際に使われる、自分で考えて走行する自律型無人探査機のことです。
ローバは月や火星に送られ、人では探査できない場所での画像撮影や鉱石採取などのさまざまな活動を行ってきました。また、地球外での活動をリモート操作で行うため、想像を超えるさまざまな環境に耐えうるための研究が、各専門機関や大学などで行われています。

地道な努力、決して諦めない気持ち、そして念願叶ったゴール判定。

STELA悲願のミッション――ゴールすること!

STELAは2011年に発足。主にこのARLISSと種子島ロケットコンテスト(JAXA主催)の参加に向けて活動しています。部員は現在15名(1~3年生)。 過去5回のARLISSで世界2位の快挙を成し遂げたものの、ゴール判定には至りませんでした。しかし、今回の大会では、ゴール地点から5.81mで初のゴール判定を果たしました。 大会4日目に残念ながら東大と電通大のチームに抜かれたものの、3位となる好成績を残しました。

※GPSの測位によって自律走行するローバが設定されたゴール地点に到達し、自動停止できればゴールできたと判定されます。

新たなマイコン搭載で機動力を高めたローバ

今回のローバは前大会でゴール地点まで走破できなかった弱点を克服するために車高を高く設計。また、ローバの頭脳となるマイコンを「アルドゥイーノ」に変更。そのプログラムのひとつに、数分間GPS値に変化がなければ(つまりローバが轍〔わだち〕などに車輪を取られて停止してしまったら)、バックするか左右に向きを変えて進む動作を組み込みました。これらは顧問の斎藤准教授からのアドバイスによるもの。AUTでは学生が自由に研究室を訪ねる習慣があり、先生との距離が近いのが特長。難易度の高いプログラムや周辺の回路部分について、親身に相談に乗ってもらえたそうです。

カムバックコンペティションのミッション

「ARLISS 2016」は9月11日~16日に開催。海外を含めた17チームがそれぞれ製作したローバをアマチュアロケットグループ「エアロバック」の協力でロケットに搭載して打ち上げます。
STELAは、ロケットから放出されたローバがパラシュートで軟着陸後に、地上を自律走行してゴールを目指す「Run-back」アプローチを競うカムバックコンペティションに参加しました。
4,000~5,000m上空で放出されたローバはパラシュートで着陸した後、GPSの測位によってゴール地点を目指します。
ローバがGPS値からゴールと判断して自動停止できれば、ゴール判定となります。
会場となるブラックロック砂漠には、自然の凹凸や轍など走行の障害となる箇所があり、完走には機体設計やプログラムなどさまざまな技術と専門的な知識が必要です。

ARLISS参加までの軌跡

土日返上で連日夜中まで

ローバの設計からパーツ製作・加工・組み立て、実験・検証と1年がかりの取り組み。
なにかあるといつでも集まって話しあい、根気よく作業を続けました。
夏休みや土日も返上して製作と実験を繰り返してローバを完成させました。
弱音を吐かずに頑張ったのは、「優勝したい!」という一途な思いがあったからでした。

参加資格を得るために悪戦苦闘

ARLISSに参加するためには、UNISECの安全審査に合格しなければなりません。
審査にはたくさんの実験項目があり、とりわけ重要視されるのが振動試験と落下試験。
何度も実験してはローバを改良し、データをまとめました。
専門的なレポートの作成が必要となるため、先生にも相談。2回の再提出を経て、審査に合格したのは、ARLISS開催の1週間ほど前でした。

過去の失敗がローバを進化させた

ローバにはロケットに搭載するため1050gという重量制限があります。
そこで本体をカーボンやアルミ製にし、軽量化したうえにタイヤ径をも小さくしました。
それでもまだ重量オーバーだったため、機体に穴を開けてなんとかクリア。
また、昨年の大会で轍〔わだち〕に苦戦した経験から、ローバの車高を高くして走破性を高めることに。
制御機能の要となるマイコンも新しいものに変更しました。
新しく一からソフトをつくらなければならない苦労はありましたが、それまでのプログラムが複雑すぎて手を加えにくかったため、かえってプログラミングしやすくなりました。
そこで新たにぬかるみや轍〔わだち〕にはまって動けなくなるというスタック(タイヤを取られ動けなくなること)に対処できるプログラムを組み込みました。GPS値が数分間変わっていないことを検知すると、ローバがスタックしていると自己判断し、バックもしくは左右に向きを変えて進むというものです。

いよいよスタート!灼熱の4日間

世界のライバルとの技術交流

大会初日は、各チームが製作したローバのプレゼンテーションを行う技術交流会が開催されました。
国際大会なのでプレゼンは英語です。
STELAのローバに自信をもって披露しましたが、他チームのローバにはタイヤに空気を入れて膨らませて走るしくみがあるなど、おおいに刺激されました。
他参加チームの大半は、学生といっても卒業研究や大学院生の研究レベル。クラブ活動として参加しているのはSTELAだけでした。とはいえ負けるわけにはいきません。

入念な調整でトラブル回避

競技1日目(12日)は風がかなり強く、打ち上げは中止してローバの調整を行いました。
すると駆動系に回転差が出ていることが判明。この現象は本番の走行に影響し、壊れてしまうことも考えられます。
何度も機体を分解してモータを調べたところ、原因はモータではなくプログラムの不具合と判明。打ち上げ直前までプログラム修正をすることになりました。
そして、迎えた2日目(13日)は絶好の打ち上げ日和。最終調整を終えて12時頃に打ち上げを実施しました。
上空まで上がったロケットからローバが無事放出され、ゴールまで約3,000m地点に着地。
落下の衝撃でタイヤが外れるなどしてリタイアするチームも多いなか、無事着地。パラシュートの切り離しも成功し、ゴールを目指して走りはじめました。

ゴール手前800m、そこに落とし穴が

順調に走行していたローバでしたが、ゴール手前800m地点でトラブルに見舞われました。
深さ15cmの轍〔わだち〕でひっくり返り、機体が土の塊〔かたまり〕に乗り上げてタイヤが空転してしまったのです。
しかし、よくよくローバを観察すると、乗り上げてはいるものの、空転するタイヤがほんの少しだけ地面に接触していたのです。
その地面との小さな摩擦力でローバの向きが少しずつ変わっていきます。固唾を飲んで見守るなか、ローバが少しずつ回ってタイヤが着地。
その後、新しく組み込んだスタック回避プログラムが作動し、バックして轍〔わだち〕を乗り越えました。

快挙!ゴール一番乗り

ローバはゴール地点から5.81mで停止。初のゴール判定を果たしました。
GPSの誤差10mの範囲内であり、これまでの大会の結果からも優勝は確実と思われました。
しかし、大会4日目の午前、東大チームがゴール付近を1時間近くさまよった末に3.76mでゴール。
午後には、電通大チームが4.80mでゴールし、3位に後退してしまいました。
2回目の打ち上げで東大チームを上回る記録を目指しましたが、着地後にパラシュートが巻きついてしまい、やむなくリタイアとなりました。
大会に参加した17チーム中ゴール判定はわずか3チーム、前回に至ってはゴール判定を受けたチームがゼロだということを考えれば、STELAの初ゴールは素晴らしい結果です。

ARLISSへの挑戦で得たもの

アルトスペシャル(左から)
朝岡優太、藤原裕大、古川宰、鈴木盛童

チームリーダーの前田さんは「現地でトラブルがあった時、仲間で話しあって問題を解決する対応力がついたと感じました。ローバの製作を通じてドローンや災害用ロボットを開発する仕事をしたいという目標ができました」と語ります。山川さんは「ローバの製作や審査用のレポートには、期限があり、それに間にあうように作業を進める実行力が身につきました」、宮里さんは「東大チームに肩を並べられたことは大きな自信になりました。その自信を今後に活かしていきたいです」と、それぞれ得るものがあったようです。秋山さんは「ローバが少しでも誤作動する可能性があると思うと、いてもたってもいられず、熱を出しても大学に行って調整したことがゴールにつながったのかも。将来の夢は、生きている間に宇宙を体験することです」と、夢への想いがいっそう強くなったようです。彼らが貴重な体験を通して学んだことは、これからもSTELAの後輩たちに受け継がれていくでしょう。

メンバー

教員からの総括

ゴールした瞬間に「優勝できる」と思いました。まさか最終日に抜かれるとは思いもよらなかったですね(笑)。でも、種子島ロケットコンテストも含めて彼らがこれまで経験してきたことがやっと実になったのかなと感じています。彼らは、1年生から「ローバをつくりたい」といっていました。「3年生になったらARLISSで優勝したい。そのためには何を勉強したらいいですか」と頻繁に質問を受けました。直前になって動くのではなく、年単位でがんばってきた。その熱意に私たちも動かされました。なによりも彼らがきちんと結果を出したことが凄いなと思います。

写真右:電子制御・ロボット工学科 斎藤 卓也 准教授
写真左:電子制御・ロボット工学科 田宮 直  准教授